―海が嫌いなら、山が嫌いなら、都会が嫌いなら、勝手にしやがれ

最近観たゴダール監督の映画《勝手にしやがれ》の冒頭セリフです。全く意味不明です。物語に何の脈略もなかったですもん。

さて、今年も色々ありました。長引く緊急事態宣言、強行開催された東京五輪、揺れるワクチン接種、衆議院解散、岸田内閣発足...それこそ、私たちは意味不明なことばかりの世の中を生きています。
しかし、これらの出来事は表層に過ぎず、過去を振り返ることでしか言葉にできない私たちはもう少し先に「あの時代はああだった」と哀れに語りながら、誰かから頂いた富をまた別の誰かに移動させる日々を繰り返すのでしょう。

今どういう時代を生き、本質的に何に翻弄され、どこまでが自らの主体として人生をコントロールできているのか。同時代性を読み解くヒントは生活の至るところに存在するはずです。だから今日も町を歩き、モノに耳を傾け、呼応するように新しいモノを創らなければなりません。

では、クソ物件（と呼ばれるもの）は一体私たちに何を語るのでしょう。私はこの言葉を聞いて、カンボジアのアーティスト、リム・ソクチャンリナの《国道5号線（National Road Number 5、2015）》を思い浮かべます。作品に映し出される真っ二つに分断された家は、彼らを取り巻く社会をありのまま語るのです。
8回目の開催となった今大会によって表象される時代の輪郭は、優しく柔らかいものなのでしょうか。それとも刃物のように鋭いのでしょうか。

最近感じたのは、包丁で指を切るよりも、不意に紙で指を切った時の方が心に残る衝撃はずっと大きいということなのです。